第2話 =職人バスカー引退=

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Oxford Circus 駅 ピッチ1

BGM 「Round Midnight」 by Wes Montgomery

拙著「地下鉄のギタリスト Busking in London」で紹介したバスカー、アンドレおじさんを覚えているだろうか。

彼は頑固一徹のジャズギタリストで下町にいる職人のようなバスカー、チップが入ってもニコリともしない。誰にも媚びを売らず、いつももくもくと下を向いてギターを弾いている、大工の棟梁のようなバスカーである。以前、稼ぎが悪かった日、改札付近で係員が発展途上国のための募金活動をしているのを見つけ「他国の他人救う前に自国の貧民救えってんだ!」と文句を言ってたことが思いだされる。

今日はめずらしく機嫌が良い。まだ交代時間前なのに僕に話しかけてきた。

「俺は本当はバスカーなんかじゃねえんだよ。ちゃんとしたエージェントに入ってて、他でもギターの仕事やってんだよ」なんて言ってる。「えっ、毎日のように地下鉄で見てますが?」なんては言えない。ここはちょっと話を聞いてみよう。

なんと彼は1976年からロンドンでバスキングしてるらしい。ってもう30年以上やってんじゃないか! そして意外な事をしゃべりだした。

「俺も年でねえ、最近手の筋が痛くなって、あんまり長時間ギターが弾けないんだよ。それにイギリスも不景気だし、今月いっぱいでバスキングを引退することにしたよ」

えー引退って!

僕はビックリした。口数の少ない人だったが僕はアンドレおじさんが大好きだった。彼の音から、背中から、いろんなことを教えてもらった気がする。彼がロンドン地下鉄からいなくなってしまうなんて寂しすぎる!

「いやねえ、いい話があってな。来月からスペインのリゾートホテルでジャズバンドの仕事が決まったんだよ。ギャラも良いし、住む所も食事も付いてるし、いたれりつくせりだよ。もうこんな空気の悪い地下鉄の中でやらなくていいんだ。せいせいするよ」

アンドレおじさんにとっては良い話なのだ。

ここは気持よく送り出してやらねば。

「もしまたロンドンに戻ってきたらバスキング再開してくださいよ、みんな待ってますから」と僕が言うと、「なにぃ〜、もうこんなケチで汚いロンドンなんて絶対戻りたくねえよっ!」といつものように文句が出る。

そして一瞬「遠い目」をすると、また下を向いて渋いジャズを弾きはじめた。

 

ー後日談ー
この日以来1度もアンドレおじさんを目撃していない。おそらく今頃スペインの豪華ホテルで優雅にジャズを弾いているのであろう。そうあってほしい。



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