第8話 =生徒との再会=

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BGM  Romance  by  Narciso Yepes


バスキングライセンスの取得前、駐在員の子供達にギターを教えていた時期があった。日系居酒屋での演歌ショーだけでは生活が苦しく、見かねた知人が紹介してくたのだ。6人くらいの生徒のお宅を2日にかけて訪問し、マンツーマン方式(英国式に言えば Face to Face方式?)で教えていた。送り迎えは車でしてくれるし、美味しい夕食は出してくれるし、皆さん本当に良くしてくれた。

今日バスキング中に「土門先生!」という声が聞こえたので顔を上げてみると、当時の生徒の1人が立っていた。あれから2年以上経っているので、だいぶ大人っぽくなっているんじゃないかと思っていたが、僕の目に映ったのは、その当時のままの彼だった。彼はホームで電車を待っていたらしいのだが、遠くの方からかすかにギターの音色が聴こえてきて、それが僕の演奏だとすぐわかったという。そしてその音を頼りにグルグル駅の中を廻って僕を見つけたのだそうだ。

思えば当時、生徒のお宅の広い庭でギターの発表会を催した事があった。僕がパンフレット作りや構成を考え、生徒のお母さん達が手料理を作ってくれたりして、それはそれは楽しいイギリスの夏の一日だった。僕も先生として模範演奏をしたのだが、生徒以上に緊張してしまいトチってしまった事を思いだす。

そういえばクリスマスの時に僕が生徒達にプレゼントしたカードの中の『人生の格言』(非常にくさい格言だったような…)にいたく感動してくれて「イギリスで育ったせいか、なんて素直な良い子達なんだろう!」と感涙した事もあった。今思えば、生徒達が気を使って大袈裟に感動してくれていたに違いない。

思い出は尽きないが、その中でも忘れられない出来事がある。

ギターを教え始めて3ヶ月目くらいの時である。その生徒のお父さんが、ギター教室が終わった後に話したい事があるので、一緒に食事でもどうですかと誘われた。

実はギター教室を始めるにあたって、そのお父さんからはお子さんにクラシックギターを教えてほしいと言われていた。しかし正直言って僕はそれまでクラシックギターを習った事も無ければ、クラシックの曲を真剣に弾いた事も無かった。皆さん御存じのようにクラシックなんてみんな子供の頃から必死に練習して習得するものなので、僕のような高校生からギターを始めたロック兄ちゃんでは、てんで話にならないのである。

しかし背に腹は変えられないという事で(笑)、とりあえず昔ちょっとかじった程度の「禁じられた遊び」を、苦し紛れに教えていたのだが、どうもお父さんにバレてしまったらしい。「禁じられた遊び」の次に「天国への階段」を教えたのがまずかったのか?(ある意味「天国への階段」もクラシックと言えなくもないが…)

その上、その生徒はロンドンに来て初めてギターを触ったという超初心者だったもので、教え始めた当初は上達が遅かった。実際、ギターは半年くらいは練習しないと上達は見られないので、特別上達が遅いというわけではなかったのだが…。

その生徒のお父さんは、音楽全般に詳しく、スパニッシュギターのレコードとかも収集してて、自分でもギターを弾くらしい。何か僕に話があるという事は、お子さんが思ったより上達しないので「もうちょっと上手く教えてくれないか」とか「君では話にならんから、今日限りでやめてくれ」とか言われるに違いない。

そして、食事の最中、お父さんが口を開いた。

「先生、うちの息子どうですかねえ?」

やっぱり来たか。まいったなあ…

「いやー、まだ始めたばっかりですからねえ(汗)、指が慣れてきたらもう少し難しいクラシックの曲でも始めようと思っているんですがー(汗)、いやはや、なんとも(大汗)」と上ずった声で非常に苦しい僕。

お父さんは続けた。

「そうですか。いやねえ、たまに息子が居間でギターを練習してるんですよ。私はテレビ観ているふりしていますがね。まだまだおぼつかない演奏ですが、親バカというかなんというか、聴き惚れてしまうんですよ。私も何百枚というプロのギタリストのCD持ってますがね。私にとっては、息子が横で生で弾いてくれるギターの音にかなうものはないですね。息子の弾くギターがどんな優れたギタリストの演奏より、私の心を癒してくれるんですよ。いやー、ほんとに親バカでお恥ずかしい、ハッハッハ。とにかく先生ありがとうございます。これからも宜しくお願いしますね」と目尻が下がりまくっていた。

ふう、ギリギリセーフか(いや全然セーフじゃねーよ)。

結局、その後2年間そのお子さんにギターを教える事になるのだが、最終的にはクラシックの中でも難曲と言われる「アルハンブラの思い出」さえも弾きこなすほど上達し、完全に僕より上手くなってしまった。

現在彼はニューヨークの超有名私立校に留学していて、同級生達とバンドを組んでいると最近お父さんから聞いた。

そして僕が当時密かに教えた「スモーク・オン・ザ・ウォーター」を爆音で弾きまくっているらしい(笑)。



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