第29話 =書店バスキング=

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数年前、日本に一時帰国の際、書店でバスキングしながら拙著「地下鉄のギタリスト Busking in London」を、自分で売るという企画が出版社のはからいで行われた(今思うと結構無理あるよなあ?それも一人で)。今回はその模様を書いてみようと思います。

きょうは、渋谷センター街入り口にある老舗書店でのバスキング一日目。

場所は一階と二階の間の階段の踊り場、総面積にして畳半畳分くらいの極めて狭いバスキングピッチであった。折りたたみイスを置いたらほとんどスペースが無い。しかしながら極寒のサウスケンジントン駅トンネルよりはだいぶマシ、寒くもなければ、耳障りな構内放送も無い。

意気揚々とスタートしたものの、やはりここは書店の中、だいぶいつもと雰囲気が違う。階下から上がってくるお客さんは、見てはいけないものを見てしまったかのごとく僕から目を反らす。「すいません、お邪魔してしまって…」と謝りながら通っていくひともいる。就職活動中の学生からは「こんな場所でやるなんて度胸ありますねえ!」なんて言われる始末(別に度胸いらんと思うが…俺ビビリだし)。とにかく本人が思っているよりだいぶ「浮いてる」らしい。

結局この日は勝手がわからず演奏に専念、立ち読み客にはいいBGMになったと思うが、本は1冊も売れず。やる事に「意味」があると思ってはいたが、実際本が売れないのであれば「やる意味無し」。結果を出さなければ誰も認めてくれない。2時間終了後、多少へこんではいたものの、ここにきてかつての便利屋根性に火がついた。

「よし、明日は10冊売ってやろうじゃないの!」

そして二日目。

昨日の惨敗を反省して、寝る前考えた作戦を実行することにする。

その1、著者が自ら店内で生演奏をして自著の販売をしている事にみんな気づいてない(普通はそんな事しないので当り前だが)。これは自分でアピールしなければなるまい。しかしながら曲を途中で止めて、通りがかりの人に話しかけるのはタイミングが難しい。というか曲を途中で止められない。そこで曲を「戦場のメリークリスマス」と「Tears In Heaven」だに絞り、止めやすい状況を常に作る事にした(この二曲はシンプルなのでコントロールしやすい)。

その2、前を人が通る時はあまり演奏に集中せず、ひたすら笑顔で目を合わせてみる事にした。多少「変な人」と思われるかもしれないが、実際「変な人」なのでこの際気にしないことにする。

とはいえ、やはり音も重要だ。フロアーでは常に多くの人が立ち読みしている。聴いてないようで聴いている。店内BGMは切られているので出音は僕のギターだけ。近くに人がいない時でも今まで以上に気合いを入れ、魂込めて弾く事にする。

以上の事を踏まえて、努めて明るく、「こんにちは~! この本、僕が書いたんですけど、ちょっと見てくれませんか~?」と声をかけ続けた。反応は両極端、完全に無視する人もいれば、手に取って1、2ページ読んでくれる人もいる。無視されるのは結構辛く、ボディブローのように効いてくるが、10人に1人くらいは立ち止まって会話してくれたりする。

30分後、1冊、2冊と売れ始めた。そして最終的には昨日の目標通り、2時間で10冊売れたのであった。

人間やる気になれば出来るものだ。

結局、出版社の担当さんにお願いして、追加、追加でロンドンに帰る前日まで書店バスキングを続行させてもらった。こうなったらもう意地である。人間勢いがついてくると恐いもので、本は毎回順調に売れ続けた。初日が0冊だったのが嘘のようだ。

後で聞いた話だが、著者の店内2時間生演奏など前代未聞らしい(バスキングで慣れっこなので6時間くらいは平気ですが?)。それに、ここは渋谷の一等地、無名の著者がイベントを出来るだけでもラッキーだそうだ。実は初めはあまり乗り気でなかった書店内バスキング(店長&担当者さんすまん)、その他にもいろいろな事があったが最終的には「やって良かった」と充実感に溢れて終了することができた。

ロンドンに帰ってからネットカフェであちこち検索していると、偶然その書店の前月の売り上げベスト5のページを発見した。第1位は木村拓也の写真集、第2位はRinkaの写真集、そして第3位には…「地下鉄のギタリスト Busking in London」が燦然と輝いていたのだった(感涙)。



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