第19話 =ずるいバスカー=

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バスカー仲間とはいえども、いい奴ばかりとは限らない。

最近は、場所取り争いも熾烈になってきている。事前の電話ブッキングにうまくいかなかったバスカー達は、各駅をぐるぐる歩き回って空きピッチを探す。今日は僕がブッキングしていたはずのピッチでジャマイカ人のバスカーが先に演奏していた。

僕が「ここは僕がブッキングしてたはずだけど?」と言うと、「冗談じゃねえ! 今日のこの時間は俺だよ。間違いねえよ、帰った、帰った!」と声を荒げた。僕もたまに勘違いすることもあるので、「じゃあ駅長室に行ってスケジュール表見て確認してくるよ」と言ってとりあえずその場を離れた。

ここグリーンパーク駅の駅長室はバスキングピッチからかなり遠い所にあり、移動するにも時間が掛かる。駅のスタッフもあんまり親切ではないので、なかなかスケジュールの確認もしづらい。

やっとこ駅長室に着いて、スケジュールを確認してもらったら、案の定僕の名前が載っている。どうもジャマイカ人の様子がおかしいと思っていたが、やっぱり彼は適当な事を言ってピッチを頂戴しようと思ってたみたいだ。振り返るとちょうど長老のバスカー「マスター」が後ろにいて、どうしたんだと話しかけてきた。ぼくが一通り説明するとマスターはこう言った。

「そんな事だろうと思ってたよ。あいつはいつもずるい事するんじゃよ。特にあんたは英語が達者じゃないからごまかしやすいと思ったんじゃろ。あいつには気を付けなさいよ」

時間は刻々と過ぎていく。

息を切らしながらピッチに戻ると、ジャマイカ人は僕と目を合わせない。僕が大声で「僕の名前がスケジュール表にあるからここは僕のピッチだ!」と言っても、「What? 何言ってんのか全然わかんねえよ。もっと英語勉強しろよ」と相手にしない。

こういうずるい奴は絶対許したくはないのだが、ここは外国、あんまり意固地になるより、スパッとあきらめて気持を切り替えた方がよい場合も少なくない。もう面倒くさいので帰ろうかと思っていた時だ。後ろから声がした。

「おい、ジャマイカンのあんちゃん。あんまり弱いものいじめするんじゃあないよ。確かにこの日本人の名前がスケジュール表にあったよ。わしも確認したから、今日のところはおとなしく譲りなされ」

おっ、なんとマスターではないか! この長い距離を老体なのに僕の為に歩いて助けに来てくれたのだ。重い荷物だってあるのに…。僕がよっぽど頼りなく見えたのだろう。

ジャマイカ人のバスカーもさすがにマスターに口ごたえは出来ないらしく、渋々演奏を止め「Sorry」と言って片付けはじめた。

マスターはそれを見届けると僕の方をみてうなずき、ゆっくりと長い廊下を歩いて行った。

 



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