第12話 =深町純氏=

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惜しくも2010年に亡くなられたピアニスト深町純氏と、生前ロンドンでお会いした時の回想録です。

サウスケンジントン駅でのバスキングが終わった後、SOHO Japan というレストランで行われた深町純氏のコンサートにかけつけた。

深町純氏は有名なピアニストでスタジオミュージシャンとしても数々の名盤に参加している。特に印象に残っているのは、20年前、僕が音響の専門学校時代の授業の時間に、和田アキラ氏(超有名なスタジオミュージシャン ギタリスト)のエレキギターと、深町純氏の生ピアノだけのセッションのマスターテープを聴かせてもらった時の事だ。

なんのエフェクト処理(エコーとかイコライジングとか)もされてないマスターテープの生の音の繊細さと、曲のメロディアスさに感激し、超一流の実力というものに度胆を抜かれた。20年以上たった今でも、その時の感動を忘れていない。

コンサートの1曲目からやられた。

後でトークの時に言っていたが、すべて即興だそうである。宣伝のチラシにも書いてあった通り「天才ピアニスト 深町純」であった。

コンサートの中盤、氏が観客に話しかけた。

「だれか適当にメロディーを歌ってくれませんか? それを即興で曲にします」

すかさず隣にいた日系フリーペーパーの編集長が「土門君やりなさいよっ」と耳打ちした。ギターでメロディーを弾くならともかく、歌は専門外だし、バスキングの時でさえ歌わないのに、「なんてムチャブリするんだこの人はっ!」と面喰らった。彼女にしてみれば歌もギターも一緒らしい。そしたら今度は後ろの方で SOHO Japan の店長が、「土門君 やってみたら?」と大きな声をあげた。

「えー、勘弁してくれよ~(汗)」

こんな大勢の人の前でアカペラで歌を歌うなんて、尋常な事ではない。それもいきなり即興でメロディーを作れと言う難題だ。

結局、数分待ったが誰も手を上げないので、編集長が「早くやりなさいよ! あんたぐらいしかいないでしょ」という視線で僕を睨んだ。店長も進行上早く誰かに手を上げてもらいたい様子ありありだ。

お客さん全員の視線が僕に集中している、気がした。

「えい、こうなったら焼けくそだ。やってやろうじゃないの!」と手を上げた。このままでは「魂のバスカー」の名がすたる。

しかし、伴奏も合図も無いところで、いきなりメロディーをひねり出せと言われても非常に厳しい。いや〜な汗が出てきた。

でも、やるしかない。雰囲気的に、もう、やるしかないのである。

これを「火事場のクソ力」と言うのだろうか(馬鹿力だったか?)。どうにでもなれと思って大声を出したら意外にメロディアスなフレーズが出た。人間やれば出来るもんである。ほんの1フレーズであるが、氏はそれをモチーフにしてコードをつけ、展開していって、素晴らしく美しい曲に仕上げてくれた。さっきまで生きた心地がしなかった僕だったが、氏の演奏能力の巧みさに聴き惚れてしまった。

演奏が終わると会場拍手喝采の嵐であった。とりあえず「魂のバスカー」面目躍如?といったところだろうか。

その後、氏とオペラ歌手のセッションがあったり、「君が代」の即興演奏があったりして、感動のうちにコンサートは終了した。本当に素晴らしいコンサートで、いっぱいいろんな「ヒント」を貰った気がする。

 

しかし、僕の本当の「仕事」はまだ終わってないのである。

なんと無謀にも僕は「天才ピアニスト 深町純」氏に自分のデモCDを手渡そうという恐ろしい計画を企んでいたのだ。

コンサートが終わると氏と関係者が階上のレストランで2次会を行うというので、僕もその場に潜入した。氏のテーブルでは今日のコンサートの発起人や友人達、綺麗どころのお姉さん達が楽しそうに食事していた。僕は角の誰もいないテーブルで一人ビールをチビチビとやった。氏がトイレかなんかに行く時に話しかけて、デモCDを手渡そうとしていたのである。

しかし場が盛り上がってたせいか、氏はなかなか席を離れない。いくら僕でも宴席に無理矢理割り込んでいくのは気が引ける。ひたすら待った。

そんな異様な僕の行動を店長は察したらしく、「土門君、深町さんに挨拶したら? 僕が紹介してあげるよ」と声をかけてくれた。さすが店長、よく人を見ている。まあ、僕が手にCDを握りしめて、ギラギラした目で氏のテーブルを凝視してたらわかるか?(笑)

店長がタイミングを計って氏に話し掛け、「ロンドンの地下鉄でギターを弾いている土門君でーす!」と紹介した。

テーブル全員の視線が僕に集中した。何事かと店中がシーンとしてみんな聞き耳を立てている。僕は頭の中が真っ白になり、震える手にデモCDを握りしめたまま、硬直してしまった。

氏が優しく僕を見つめた。

僕はひと呼吸置き、最後の勇気を振り絞った。

 

後日談
亡くなる前のコンサートで、氏はこんな言葉を残している。

「夢というのは、叶うかどうかはどうでもいい。(夢は)見ることが大切だと僕は思います。それは人生の目標と同じだと思うんです。(客席に向かって)みんなはどういう人生が素晴らしい人生だと思う? 僕が信じていることはひとつです。死ぬ間際に、『僕の人生は素晴らしい人生だった』と思えれば、それが 『素晴らしい人生だ』と思う。で、そのためにどうすればいいかというと、これがわからないんですけど、僕にとってもっとも大切なことは、『夢をみること』 です。(夢が)叶うこと、叶えることじゃない。(客席から拍手) 夢なんて叶わないんですよ。でも、ある目標、目的を持って生きることはとても大切です」



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