第10話 =特別編=

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BGM  Streets of London by Ralph McTell

今回は、第10話記念ということで、ロンドンに初めて到着した時の事を書いてみました。

=ロンドン行きの飛行機の中にて=

夕刻6時30分、飛行機は高度を下げ始めた。思ってたよりもだいぶ暗いロンドンの街並を見下ろし、ガイドブックも持たず、突然独りで来てしまった事を後悔した。

思えば、某バンドを脱退してから多種多様な仕事を経験した。音楽の仕事も続けていたにはいたのだが、バブル崩壊後は、大規模なコンサートやイベントはめっきり少なくなってしまい、バックミュージシャンの仕事だけて食べていくには厳しく、某長距離割引の電話会社で工事人をやったり、結構危ない仕事も引き受ける便利屋で働いたりもした。収入はそれなりにあり、日々の生活に困ることはなかったが、心の奥の「何かが足りない」という感情は消えることはなかった。

中途半端に日々は過ぎて行く…。

当時35才、人生の岐路である。正直ここで完全に音楽をやめてまともな仕事に就き、結婚して、子供とキャッチボールでもして、という人生もありだと思った。いや、もしかしたらそれを望んでいたのかもしれない。しかし、同時にその時期、人間関係のトラブルや、過度のストレス、精神的な疾患などに見舞われ、結果的にそれらが背中を押した。

ある日、僕は衝動的にロンドン行きのチケットを予約し、後戻り出来ないように自分で自分で追い込んだ。そして次の日会社に辞表を提出し、マンションを引き払った。

=ロンドン到着1日目=

エッジウェアロード駅近くのホテルに着いたのは夜8時過ぎだった。お腹が空いたが勝手がわからないし現金も持ってなかったので、部屋で旅行会社から貰ったパンフレットをひとりボーッと眺めていた。正直言ってどうしたらいいかわからなかった。英語も高校以来なにもやってないので、まったくもって自信がない。というか、ここまで来てなんだが、自分が英語を話すなどとは想像もつかない。どうせだったら誰かと一緒に来れば良かったとマジで後悔した。しかしもう遅い、とにかく明日からは前向きに行動することにしよう。

ふと、パンフレットの中に面白そうなツアーのチラシを発見した。

「ビートルズ ウォーキング ツアー 日本人ガイドがお供します」 おお、これはいい! 一度アビーロードの横断歩道を渡ってみたかったし、何より日本人ガイドというのが心強い。電車とかバスの乗り方も教えてもらえるだろうし、お金の両替の仕方も聞けるだろう。とりあえず明日はそれに参加して様子を見ることにしよう。

明日の予定は立てたものの、不安と孤独感は消えない。まったく眠気が無いままベッドに入った。

=ロンドン到着 2日目=

「ビートルズ ウォーキング ツアー」はとても楽しく、久々にワクワクした気分になれた。念願のアビーロードの横断歩道も渡って写真も撮ってもらったし、ビートルズが最後に演奏したレコード会社の屋上も見学した(実際は下から眺めただけだったが)。ビートルズが歩いた道と同じ道を歩いていると思うだけで気分は明るくなった。帰り際にガイドさんが「今夜友だちとソーホーのバーに行くので御一緒しませんか?」と誘ってくれた。もちろん僕は何の予定もないので、夜9時にそのバーで落ちあうことにした。

9時過ぎ、教えてもらったバーに何とかたどり着いた。中は超満員で熱気に溢れている。ステージではブルースバンドが演奏していた。ブルースの本場はアメリカだが、イギリスも結構レベルが高い。やはり至近距離で生の英語で歌われると迫力がある。奥に入ると、さっきのガイドさんが友人と一緒にビールを飲んでいた。その友人がギターを持っていたので何かあるのかと尋ねてみると、この後ジャムセッション(飛び入り演奏)があるという。なんだったらギターを貸してあげるので君も出てみてはどうかと言われたが、僕はロンドンに着いたばっかりだし、心の準備もできてないので「今日のところは…」とお断りした。本当はブルースというものをほとんどどやったことが無かったのと、イギリス人の前でギターを弾くなんて恐れ多いと内心ビビっていたのだ。

しかし11時過ぎ、場内最高潮の時、司会者が叫んだ。

「ネクスト ギター! ドモーン! フロム トーキョー!」

うっ、まずい、これはまずい(汗)。

お茶目なガイドさんが僕に内緒でエントリーしてしまっていたのである。一瞬、頭の中が真っ白になり、へらへら笑って脱力してしまったが、ここまで来て辞退しては男がすたる。この際、深くは考えないようにしてギターを借り、ふらふらとステージに上がった。いつの間にか1曲目が始まっていた。みんなジャムセッションの常連らしく、スムーズに曲は進行していく。僕はもともとブルースのフレーズをあまり知らないので、唯一得意のファンキーなフレーズで応戦した。それが功をそうしたのか、お客から歓声が上がった。一緒に演奏しているミュージシャン達も「この日本人、なかなかやるじゃないか!」とお互い顔を見合わせている(ような気がする)。かくして3曲ほど演奏し、大喝采のなかステージを降りた。

ステージから客席のほうにぼう然と歩いていくと、両脇から「エクセレント!」、「ファンタスティック!」とお客さん達の声が響いてきた。

それまでの不安、偏見、過去、すべてが吹き飛んだ。

 



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